開発ストーリー#3<br>ブランドづくりは仲間づくり

開発ストーリー#3
ブランドづくりは仲間づくり

目次

みなさん、こんにちは。

AIR SHELFのブランドマネージャーを担当している大川と申します。

この連載記事では、平安伸銅工業とTakramのコラボレーションブランドである『AIR SHELF(エアシェルフ)』がどのようにしてできたのかについて、平安伸銅工業に所属する私の視点から読者の皆さんにお伝えしていければと思います。

#2では、AIR SHELFの販売元である平安伸銅工業のこれまでの軌跡を振り返りながら、企業のビジョン・ミッションが、新しいブランドをつくるに際して大切な「拠り所」となることを共有させていただきました。

今回は、「新ブランド開発の一歩目を何から始めたのか」についてご紹介させていただきます。


ブランドづくりは仲間づくり

新ブランドの立ち上げに際して、一番最初に取り組むべきことは何でしょうか?関連書籍を読んで調べてみると、少し小難しいですが、まずは事業領域であるドメインの設定と、それに合わせた市場・ユーザー調査から始めるとありました。

でも、今回の平安伸銅工業は、そういったセオリーからはちょっと(かなり?)違うアプローチから入りました。

それは、一緒に取り組んでくださるパートナーを探すこと(=仲間づくり)です。

平安伸銅工業は自社だけで、すべてのプロダクト・サービス開発のプロセスを完結させることにこだわっているわけではありません。

実際、2016年に立ち上げた『DRAW A LINE(ドローアライン)』というブランドは、クリエイティブユニットの『TENT』さんにプロダクトデザインをお願いしました。同じ時期に立ち上げた『LABRICO(ラブリコ)』も外部デザイナーへの委託ではないですが、新たにデザイナーを採用して立ち上げたブランドです。

今後も常にデザインを外部に委託して進めるわけではありませんが、新しいことを始める時には、ブランドづくりのいずれかのプロセスに、平安伸銅工業に良い意味で染まっていない、新鮮な視点を取り入れていくことが良いと考えています。

なぜなら、新しいことをするには、ある種の「思い込み」を突破する必要があるからです。

「新しいことをする」と意識していても、どうしても自社の得意領域だけで考えたりすることは発生してしまうと私たちは考えています。それだけ、「思い込み」を自覚して、乗り越えることは難しいからです。

なので今回は、小難しい調査からではなく、仲間を探すところから始めました。

また、AIR SHELFのグラフィックやコミュニケーションを担当する社内メンバーは、いずれも当時、入社1年以内のメンバーをアサインしました。


仲間づくりに必要な判断軸

パートナーを決めるにあたって、事前に大切にしたい判断基準を社内で決めました。

  1. ユーザーの体験設計まで俯瞰して一緒に考えてくれる
  2. 生活者目線でのプロダクト開発ができる
  3. これまで作られたモノを見て、平安伸銅工業と相性が良いと感じる

ユーザーの体験設計まで俯瞰して一緒に考えてくれる

これは、当時の平安伸銅工業の「殻」を破りたいという課題意識から決定しました。新ブランドを立ち上げようとしていた当時、平安伸銅工業はカスタマーに関わる専門部署を立ち上げるなど模索を続けていたのですが、なかなか「モノを売って終わり」という状況から脱しきれず、その先のユーザー体験を意識した商品設計ができていませんでした。

大切なのはプロダクトを売ることではなく、ユーザーがプロダクトを通して暮らしを良くすることです。今回のブランド開発では、「モノを売って終わり」にするのではなく、理想の体験を構想した上で、お客様がその理想体験を実現するための「手段」としてプロダクトを開発したい。そう考えました。


生活者目線のプロダクト開発ができる

平安伸銅工業はもともと、突っ張り棒などの暮らしの便利品を扱う会社です。常に機能的な「便利さ」を重視したモノづくりをしたいわけではありませんが、「多くの方が普段の暮らしで使える」ことにはこだわりたいと思っていました。
なので、海外でデザイン賞をとることに比重を置いたデザインとは距離を置こうと考え、あくまで普段の暮らしの中にあって「良い」と思えるモノづくりを志向しているパートナーを探しました。

ちなみに、AIR SHELFは、あったら嬉しい便利機能もたくさんありますが、それ以上に暮らしに対する感性が豊かになることを価値の真ん中に置いています。多くの方がAIR SHELFを通して、暮らしをもっと好きになることがブランドが目指したい世界です。


モノを見て平安と相性がいいかどうか

これは、『DRAW A LINE』をデザインしてくださったTENTさんのアドバイスから来ています。メーカーとデザイナーの相性を判断するために、TENTさんは「経歴で判断することよりも、デザイナーが開発に関わった製品をメーカー側の人間が、自分で見て・触って・使ってみて満足できるかどうかを判断基準にするといい」と教えてくださりました。

自腹で買って使って、心底満足している製品があるならば、それを作った人とは、根底の部分で価値観が共有できているはず。そこで、今回のパートナー探しもモノベースで相性がいいと思えるパートナーさんに決めようとなりました。

これらの判断基準を持った上で、パートナー候補を洗い出し、面談もさせていただきました。その中のひと組が今回、協働でブランドを立ち上げたTakramさんです。

3つの判断基準の中でTakramさんが今回のプロジェクトに相性がいいと思ったのは、「ユーザーの体験設計まで俯瞰して一緒に考えてくれる」ところです。

Takramさんのこれまでの実績を拝見して、ユーザーの体験設計にも豊富な知見があることが、平安伸銅工業の次なる挑戦に大きく手助けいただけると思いました。また、その他の判断軸である生活者目線であることなどは、その後のプロセスを通して体感することになりました。

いざ面談をしてみると、驚いたことにTakram代表の田川欣哉さんが我々のプロダクトの可能性について熱く語ってくださったのです。私たちの気持ちも高まり、すんなりと協働が決まりました。オンラインでの面談でしたが、この時お互いに対するリスペクトがしっかり伝わったことが決め手だったように思います。


メンバーの熱量も重要

後日談ですが、Takramさん側でも平安伸銅工業の仕事を受けるかどうか、検討があったそうです。そこで、プロダクト・デザイナーを務めてくださった岩松直明さんが「自分がやりたい!」と手を挙げてくださり、最終的に会社として協業することに決めてくださいました。平安伸銅工業も「推進者の熱量」を意思決定の大事な基準にしていることもあり、この点でも相性の良さを感じることができました。

彼の熱量がなければ、この協業が成立しなかったと思うと、やはり事業の肝は「人」だとあらためて思います。

少し長くなってしまいましたが、Takramさんと協業したキッカケは以上になります。


次回は、「#4 day1(or day0)からコンセプトもアイデアも考える」になります。いよいよ具体的に、平安伸銅工業とTakramが協働を始めて、どのようにAIR SHELFのコンセプトを作っていったのかについてご紹介できればと思います。