「地震対策のための家具固定」といえば、家具転倒防止突っ張り棒を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
実は、家具転倒防止突っ張り棒の家具固定力をさらに上げるのが、家具転倒防止マットの併用です。
平安伸銅工業が開発している、一見シンプルな家具転倒防止マット。
実はコロナ禍の中、さまざまな人たちの情熱のもとに、試練を乗り越えて開発された商品なんです。
今回は、開発までの道のりと、開発者の福田が商品に込めた思いに迫りました。
「過去の失敗」を乗り越える
平安伸銅工業では、過去にも家具転倒防止マットを販売していました。
しかし、当時の商品は市場にうまく浸透せず、大量の在庫を抱えた末に販売中止に。
家具固定は家具転倒防止ポールとマットを併用することで強い固定力を発揮します。 けれど、このマットだけが手に取ってもらえない。
新しい家具転倒防止マットの開発担当になった福田は「同じ条件で同じものを作っても、また在庫の山になるだろう」という強い危機感を抱きます。
どうしたら、お客様に手に取って「使いたい」と思ってもらえるようになるのか。 開発に際して、防災士の方にマットに関する話を聞くと、返って来たのは意外にも家具を固定する強さの話ではありませんでした。
「家具転倒防止マットって挟んでるだけだから、タンスの開け閉めだけでずれてしまうんですよね。それが地味にストレスで。」
それに、目立つデザインだとインテリアの邪魔をしてしまう。
「固定力の強さに加えて、日常生活の中で起こるズレやデザイン」というこの課題こそが、ユーザーにとって本当に価値ある製品を生み出すための、新たな挑戦の幕開けとなったのです。

↑過去に発売していた家具転倒防止マット
東大阪の町工場と挑んだ”不可能”
日常生活でもずれてストレスにならず、デザイン性のあるマットを作るにはどうしたらいいか。
福田が思いついたのは、透明のマットに粘着性の高いゲルをつける、というアイデアでした。
しかし、マットの素材とゲル素材という異なる2つの材料を同時に成形する「2色成形」は前例が少なく、高度な技術が求められました。
依頼した多くの工場に「難しい」「絶対できません」と言われる中、福田は東大阪にある「東穂」という町工場にたどり着きます。
東穂の担当者は、福田の熱意に「できるかできないかは分からないけれど、私たちの会社でやらせてください」と応えてくれました。
福田は、耐震マットの開発が成功した要因の「95%は製造技術」と断言します。
理想の形になるまで…綱渡りの試行錯誤
新製品の核となるのは、家具と床の間に設置し、地震の振動を吸収する「クッション性のある粘着ゲル」です。
しかし、その開発はまさしく試練の連続でした。
特に、製品の「くさび型」という薄くて歪みやすい形状を維持するためには、微妙な調整が不可欠。時には暑さや寒さなど気温の変化で品質が変わり、テスト品が「使い物にならなかった」こともありました。
また、粘着性を追求すればするほど、家具の表面にゲルの油分が染み出し、家具にシミを作ってしまうという問題も発生。
家具を傷めずにしっかりと固定できる「絶妙なバランス」を見つけるため、油分を減らしながらも粘着力を保つという、綱渡りのような調整が何度もつづきました。
さらに、ゲルの「色」の調整も難航を極めます。当初は「4倍ぐらい色が濃かった」というゲル。色が濃いと家具に挟み込んだ時に目立ってしまう。最終的には、家具に貼っても違和感がなく、かつゲルの存在を視覚的に認識できる視認性の高い色合いに調整されました。
加えて、家具の重みで潰れた際に粘着部が適切に機能し、転倒防止の機能性を高めるために、ゲルに微細な凹凸を施すことになりました。
結果に正直に、挑んだ耐震試験
開発の最終局面、2021年の初頭からは、製品の「耐震試験」へと移ります。
本物の地震を再現できる試験先の検討、試験条件の精査…半年の調整を経て迎えた2021年7月の耐震試験。
「もし、この揺れに耐えられなかったらどうしよう…」。
福田の脳裏には、そんな不安がよぎったといいます。しかし、たとえ耐えられなかったとしても、その結果を正直に受け止め、包み隠さずお客様に伝えよう。ということは、社内で決定していました。
迎えた耐震試験。
この家具転倒防止マットは、単体で震度6弱の地震にも耐えるということが分かりました。
最後の試練は「リモートの壁」
製品がある程度形になると、その次にとりかかったのがパッケージデザインです。
この開発は、奇しくもコロナ禍で、業務がフルリモートになった中でスタートしました。この状況は、商品の顔となるパッケージデザインを担うグラフィックチームとの連携に、予期せぬ「見えない壁」をもたらします。
特に、「直接現物を見せて説明する機会がなかったのが一番大変だった」と福田は振り返ります。商品サンプルをグラフィック担当の自宅に送り、「オンラインで商品の性能を伝える」という、もどかしい作業が続きました。
専門的な製品の情報を「どう説明する?」「どう載せればいいんだろう?」と試行錯誤し、お客様に伝わるキャッチコピーやデザインに落とし込んでいきました。
パッケージデザインも、中身が見えない箱詰めではなく、透明な袋に厚紙を挟み込み、粘着ゲルが見えるように工夫。枚数も一目で分かるように、細部にわたる配慮がなされました。
かつての家具転倒防止マットとは一目瞭然。少しでも手に取ってもらえるのではないか、と小さな願いを込め、家具転倒防止マットが完成しました。
防災を「当たり前」の未来にしたい。
福田は、耐震マットの開発を振り返り、こう語ります。
「このマットは、ただ儲けるために開発したわけではありません。手に取りやすい商品をつくることで、防災を意識するきっかけとなり、家族や自分を守る意識を高める商品となることを目指しています。」
「そして、地震に備えることがいつか当たり前になってほしいなと思います。」
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