家を建てたとき、心に決めていたルールがありました。
それは「固定の家具はなるべく買わない」ということです。
なぜなら、私たちの生活は想像以上に変化し続けるものだから。
子どもが成長すれば遊び場が勉強部屋に変わりますし、私自身、予期せぬリモートワークで急に書斎が必要になることもありました。
そんな時、用途や場所がガチガチに決まった家具は、かえって生活の自由さを奪ってしまうことがあるんです。
そこで私がたどり着いた答えが、何にでもなれる最小単位の「ハコ」でした。
経歴
建築家
S and 一級建築士事務所
代表 佐藤 荘一
「最小単位の構成だからこそ、何にでもなれる」
──まず、この「つみハコ」はどういった特徴を持つプロダクトなのでしょうか?
一言で言えば、「何にでもなる箱」です。
単体で収納ハコにすることもできますし、組み合わせればデスクやテーブルの脚、あるいは本棚としても使えます。使い方をあえて限定せず、ユーザーが自由に役割を編集できるのが最大の特徴です。
設計においては、材料である「サブロク板(3×6板)」という規格サイズの合板から、無駄なく効率的に部材を切り出せる寸法を計算し、図面化しました。
2個縦に並べて天板をセットすると、ちょうどデスクとして使い勝手の良い高さ(73cm)になったりと、組み合わせパターンを想定してサイズを設定しているので、積み上げたり並べたりすることで、その時々に必要な家具へと変化させることができます。
また組み合わせることが前提なので、安全性も考慮して、箱同士の接合部分にダボをはめて安定性を保てるようにしています。
「『固定の家具』は、なるべく買わないと決めていた」
──そもそも、なぜこの「箱」を作ろうと思われたのですか?
最初のきっかけは、自分の家を設計して、いざ暮らそうと思った時に、「本棚」を作ろうとしたことでした。
この自宅を設計した際の根本的なテーマとして、「場所の使い方が固定されず、変わっていくこと」を前提にしていました。そのため、家具もなるべく用途が限定されるものにしたくなかったんです。
通常、新生活を始める際は「デスクを買おう」「ソファを買おう」と考えがちですが、私は固定の家具をなるべく買わないと決めていました。
専用の家具を買ってしまうと、将来レイアウトを変えて移動させた時にサイズが合わなくなったり、役割を終えて不要になったりするからです。
「動かせること」「形を変えられること」を重視した結果、特定の家具ではなく、この可変性のある「箱」を作るに至りました。
「個性を消し、使う人の色に染まる『構造物』をつくる」
──建築家として「つみハコ」というプロダクトをデザインする時に意識されたことは何ですか?
プロダクトデザイナーの方のアプローチは、商品そのものに個性や色を持たせることが多いですが、私の場合はもっと「構造物」のような印象を持たせています。
あえて最初から色や性格をつけず、要素を極力少なくしています。それは、「使う人の色に勝手に染まってほしい」という意図があるからです。
素材をそのままで提供することで、ユーザーが自分で好きな色を塗ったり、側面にポストカードを貼ったりと、自由にカスタマイズしてほしいですね。
設計者が意図していなかったような、予想外の使い方をしてもらえるのが一番嬉しいです。これは私が住宅を設計する際、住み手に「想定外の使い方をしてほしい」と願うのと全く同じ感覚なんです。
「つみハコはあくまでもベース。長く使い続けて欲しい」
──非常にシンプルなデザインですが、そこにはどのような意図があるのですか?
個性がありすぎるものや、その時のインテリアのトレンドを追いすぎたデザインは、いつか飽きられたり、陳腐化したりしてしまうと思っているからです。
住宅も家具も同じですが、作り込みすぎてしまうと、そのトレンドが終わった瞬間に古びて見えてしまいます。
長く使い続けるためには、その時々で住む人が楽しめるような、なるべく要素の少ない「ベース(素地)」であることが重要だと考えています。
飽きが来ず、その時代の生活スタイルに合わせて意味を変えていけるもの、それがこの「箱」の目指した姿です。
本棚からデスクへ。予期せぬ変化も、この箱が受け止めてくれた
──佐藤さんは「場所や家具を固定しない」ことを大切にされていますが、ご自身のライフスタイルの変化について具体的にお聞かせください。
仕事柄、子育て世代から子供が独立した後の世代まで様々なご家族を見てきましたが、生活の段階や考え方は驚くほど変化します。
実際に我が家でも、コロナ禍でリモートワークが必要になった際、当初仕事をする予定のなかった場所にこの箱を移動させ、急遽デスクを組んで仕事場を作りました。
かつて子供用のジャングルジムやトランポリンを置いていた場所は、子供の成長と共にその役割を終えたりしています。
もし最初から「ここは子供部屋」「ここは書斎」と用途を決めて作り込んでいたら、無駄な部屋が生まれたり、変化に対応できなくなっていたでしょう。
『どう使うか考える余地』が、暮らしを面白くする
──つみハコをどのように使ってほしいですか?
「どう使うか考える余地」がある方が、生活は圧倒的に面白いと思っています。
模様替えのワクワク感や、工夫しながら住みこなしていく楽しさ。そういった「余白」を家具や家の中に残しておくことが、長く豊かに暮らすための秘訣だと考えています。
つみハコは、そういった意味で、暮らしの変化にずっと寄り添ってくれる存在です。
ユーザーにも実際に、つみハコでいろんな暮らしを試しながら、自分に合う暮らしを見つけてほしいと思います。

